The collection of short essays by Our President (Masaaki Okada)


ところかわれば何とやら <其の一>」


 秋田県の大館から一人のお客さんが訪ねてきました。初めてお会いする方です。昼食は何でも良いと言うので折角山形に来たのだから蕎麦をご馳走しようと思い、近くの繁盛しているそば屋にお連れしました。ところがその方はテーブルに運ばれたそばを一箸つまんだだけで箸を置いてしまったのです。お腹の具合いでも悪いのかなと聞きましたが「いえ、そんな事ありません・・・。」との返事。「それじゃ、それもったいないから私いただきますよ」その残ったそばをいただいてしまいました。ズズーッとそのそばをすすりながら上目でちらっとその人を見ると腹具合いではない別 の理由がありそうでしたがあまり気にせずにいました。「こんなにうまいそばを食べられないなんて残念だな。そば屋でない方が良か ったかな?」とは思いながらも。

 それから数年彼とはお付き合いが続き遠慮なく話しができるようになりました。そんなある日私が秋田の大館へ行った時、昼食に出かけることになり何でもいいから好きなものを言ってくださいと聞かれたので私は迷わず「そば」と答えました。「え!?そばなんかでいいの。もっと別 のものを言ってください」と彼。
 どうしてそばじゃいけないの、好きなものをと言ったじゃないかと聞き返しま した。「そばとかうどんはお客様にご馳走する食べ物ではないんです。そば、うどん をご馳走するということは歓迎していない客に対してだけです。粗末な食べ物 を昼食に出すということは暗に早くこの家から帰ってくれという意志表示なんです」そして「この地方では自分達がそばやうどんを食べている音も絶対他人には聞こえないようにしている。貧乏していると思われるから」だそうです。「あ!それだったのか」私は数年前の山形でのそば屋での件を思い出して彼に言いました。  「あの時、実はがっかりしました。私は歓迎されていないんだ。早く帰って もらいたい客なんだ、そばなんかご馳走されて。と思いました」と今まで言い たくても言えなかったことを堰きを切ったように私に向って言う彼。そしてあの時はもう咽を通 る状態じゃなかったんだそうです。

 ほんとに土地がかわれば食べ物もかわるものです。山形ではそばは何か祝い 事があるとご馳走として縁起物として良く食べられるのですが。その後、私達二人は山形でのそば屋の件の思い出話しで顔を見合わせながら 大笑いしていました。大館比内町の米代川近くの手打ちそば屋でテーブルを挟 みながら・・・・・。

(2003.04.04)



ところかわれば何とやら <其の二>」


 ところかわれば食べ物の習慣も違うという話しを前にした訳ですが、今回は先日、山形の一流ホテルで行われた結婚式でのことを紹介します。私の隣の席には親しくお付き合いをしている青森県下北半島から参列したOさんが座っていました。披露宴も中盤の頃その方が突然私に向って「へえ〜?もう長いものが出てきたぞ」と話しかけてきました。彼の手には紅白の素麺が入ったお汁腕がありました。そしてそれをしみじみ見つめているのです。「どうしたい。そのお汁がどうかした?」と聞き返しました。 「わ(=青森の方言で自分のことを言う)のところでは、そばとか素麺とか長いものが出た時は、これでこの宴は終わりでもうご馳走はでないよ。悪く言えばもう早くお帰り下さいという合図の食べ物なんだよ」と言うのです。「そんなことないよ。だってまだまだ料理が出てきてるじゃないか。こっちじゃ そんなこと全然関係ないよ」とテーブルの上に次々と運ばれてくる料理を指差しながら私が言うと、彼は「ほんとだ。ふ〜ん?同じ東北でも食習慣がこんなにも違うんだ。もっともわのところは本州の北のはずれだからな」とびっくり していました。

(2003.04.04)



copyright @2001 Okada Design Office all rights reserved.