The collection of short essays by Our President (Masaaki Okada)


忘れんぼ


 先日、仙台での打ち合わせに前日に必死になって仕上げたプレゼンテーションを忘れてはいけないと玄関にあらかじめ用意していたのに、忘れて出かけてしまった。高速道路を走っている途中突然思い出してUターンして戻り1時間の遅刻をしてしまった。携帯電話は3日に1回は自宅へおいたままオフィスへ出てくる。どうもいけない。
 以前、来社したお客さんを昼食をご馳走しようと出かけたのは良いが食べている途中財布を忘れてきてしまったことに気がつき、恥ずかしながらお客さんに立て替えてもらうことになってしまった。なんという失態だ。もちろん妻が後日、お客さんへ立て替えていただいたお金を届けに行くはめになってまった。
 そんな事があってこれからは出かける時は財布をわすれないようにしなければと気を付けていたのだが、数日後、一人で昼食に出かけた。歩いて10分位 のところの始めて行く中華料理屋で食べ終わった頃、財布が無いのに気がついた。「うわー、また やってしまった。」とつい声を出してしまった。まったく自分ながらあきれてしまう。「すいませ〜ん。電話貸してくれませんか。」厨房のおじさんへ声を掛けた。「あ〜。いいよ。そこの電話を使ってもいいけど?」 店内にはピンク電話があるのに電話を貸せとは変な客だなと思ったかもしれない。カウンターの厨房よりに置いてある店用の電話を借りた。
「ごめん。またやってしまった。財布忘れてきてしまった。悪いけど持ってきて。」「ほんとにしょうがないんだから。一体どこで食事しているの?」とあきれた声の妻。様子がわかった厨房のおじさんと奥さんらしい人から「なんだ。そんなことなら一度帰ってからお金持ってきてくれていいのに。後でいいよお客さん!」と言われたんだけど、苦笑いしながら手を左右に振ってその好意は辞退しながら妻に店の場所を告げた。「え!もしかしてそこの店美味しかった?それともまずかった?」変なこと聞くもんだ。「え?うん、ま、それなりに・・・・。」店の人が聞いているのに本当のことは言えない。「ま、とにかく。財布持って迎え頼む。」「ねえ、そこの店は味がひどいでしょう。美味しくないでしょう。評判なのよ。まずいって。ね、そこでしょ。そこならどこにあるかわかるわよ。ね、そこ。」「うん。」なんか誘導尋問されているような会話なのだが味に関してはその通 りなん だ。

 「どうして、よりによってあの店なんかへ行ったの?近所では評判のまずい店なのよ。私も一度友だちと食べてこりごりしたんだから。ほんとになにもそんな店へいかなくたっていいのに。」迎えに来た車の運転席で彼女が言うが、そんなことをはじめから私が知るはずがない。財布を忘れて出たことよりその店へいったことを批難されている。どうやらそのまずい店へ入ったおかげで財布を忘れたことへの批難のほこさきは避けられたようだ。助かった。が、こんな事があった後は昼に外食する時は何故か彼女がいつもついてくるようになってしまった。

 今日の午後、宅急便で私宛に手帳が届いた。先週、鶴岡に打ち合わせに行った時に忘れてきたのだ。先方の方が送ってくれたのだ。ほんとにどうしようもない。その宅急便はしっかり妻が受け取っていた。彼女のあきれた目が恐かった。
                               

 (2002.01.16) 



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