また同じ居酒屋でのある晩。
「おい、あんたは何歳だ?」
と、突然テーブルをはさんだ向かいの老人から、下を向いてホッケ焼の身を一生懸命ほぐしている私の頭ごしに声をかけられた。
「は?!」
と返す私。
「歳だよ。幾つだい?」
突然の質問に反射的に自分の歳をつい応えてしまった。
「白いよな。少しすくないよな。」
何だよ、人のことどうだって良いではないか。と少しムッとするが言葉を返す間もなく、
「納豆とニンニクだよ、あんた。一週間に2回、一緒に食べて見ろ」
と、その老人。 余計なお世話だと思いながら無視するが、
「直るぞ。白い髪が黒くなるぞ。やってみろ!」
と、なんと一人で飲んでいる私をゆっくりさせないのだ。仕方がないので、
「あ〜、そうですか。ありがとう、そうしてみる。」
と曖昧な返事をしながらその老人の頭を見ると、髪の毛は全くなかった。更に返す言葉を失ってしまった。
老人は自分の食べ残しの煮込みと、まだ入っている2合徳利を私に「これ、やるよ。」と席を立って帰っていった。
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